特別待遇と情報の非対称性

これからの授業料無償化に伴い、特別待遇を利用しての選手獲得競争は激化し、その開始時期も早まるだろう。
今回、高校サッカーにおける特別待遇について自身の見解を記しておく。
高校サッカーの特別待遇
中学年代の競技成績などを評価し、特定の選手に対して高校側が学費免除など特別な待遇を行う。これが特別待遇である。
この特別待遇は主に全特(ゼントク)と半特(ハントク)の二つがある。授業料や部費の免除、そのほか遠征費やユニフォーム費などに対し、全額または半額の補助がおこなわれる。
情報の非対称性
特別待遇は選手あるいはその家族にとって魅力的な制度である。しかしこの特別待遇には、情報の非対称性という少々厄介な課題が存在すると考えている。
情報の非対称性とは経営学の理論であり、売り手と買い手の間でやり取りされる情報の不均衡のこと。この情報の不均衡では、売り手優位で取引が行われる(ここでの売り手は送り出す側の中学校やクラブで買い手は選手を受け入れる高校とする)。
この売り手優位な状況が高校サッカーの特待制度に潜む、重要な改善課題と考える。
売り手の情報
売り手のリアル(中学年代の指導者)
「正確な情報を提供するようにしている」と話す多くの指導者。しかし、そんな中学年代の指導者にも、誘い元の高校によって提供する情報の内容に若干の違いがあるという。
選手へ勧めたい高校からの誘いがあれば、積極的に情報を与えますし、すこし盛って話すこともありますよ。だけど、勧めたくない高校からの誘いへは、選手情報の提供は消極的になるし、あえてネガティブな側面ばかり話すこともありますね。
また、こちらから高校側へお願いするとき、気に入っている選手の情報提供の際には、すこし大袈裟な表現になることもありますね。
買い手の情報
買い手のリアル(高校サッカー部の指導者)
特別待遇を与えるためには、選手の正確な情報を集めるだけでなく、実際のプレーを見て評価することが重要と話す。しかしながら、継続的に選手を獲得するためには、正当な評価だけでは通用しない事情も存在するようである。
基本的に指導者からの情報を信用しています。とはいうものの、クラブとの関係をつないでおくために、評価できない選手でも受け入れることがありますよ。
普段から付き合いのある指導者からのお願いであれば、正直断れないことも多いです。全国大会へ出場したクラブ所属の選手なら、試合に出場してなくても、経歴として記載すれば、特別待遇の条件として認めることもありますからね。
優位に立つのは売り手側
指導者の声から、売り手と買い手のアンバランスな関係は、なんとなく見えてくる。選手の正しい情報をもとにしたフェアな情報交換が重要と分かっていても、両者の声を聞き比べると、どうしても売り手優位に感じられてくる。
売り手優位なこの特別待遇について、筆者は見直しが必要と考えている。なぜなら売り手優位の状況は、高校側へいくつかの不利益をもたらす可能性があるあるからだ。
特別待遇への期待値
特別待遇を与えた選手の期待値は、必ずしも約束されてない。これが多くの高校サッカーの指導者の見解だ。つまり、評価手順をきちんと踏んだうえで特別待遇を与えても、将来の活躍は不透明ということを意味する。
だからといって、特別待遇が不要かといえばそうではなく、継続的にサッカー部を運営していくためには、選手(生徒)数の獲得は重要であることに違いはない。
情報の非対称性を改善し、売り手と買い手の取引を平等にできれば、特別待遇の価値は高まっていくはずだ。そしてその価値の高まりは、指導者間で交換される情報の精度を高め、地域のサッカーの底上げに大きく貢献するかもしれない。